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[CEDEC+KYUSHU]TRIGGERの演出家が語る「実は業界人もよく分かっていないアニメーション演出の仕事」
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印刷2023/12/25 12:00

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[CEDEC+KYUSHU]TRIGGERの演出家が語る「実は業界人もよく分かっていないアニメーション演出の仕事」

画像集 No.012のサムネイル画像 / [CEDEC+KYUSHU]TRIGGERの演出家が語る「実は業界人もよく分かっていないアニメーション演出の仕事」
 アニメの制作にはさまざまな専門スタッフが関わっている。シナリオを書く「脚本家」,複数の原画を合わせて動きを作り出す「アニメーター」,シーンに合ったBGMや効果音を加える「音響」,これら全体をまとめる「監督」など,いずれも名前だけで仕事の内容が分かるだろう。

 では「演出」はどうだろうか。物語の展開をデザインするのは「脚本家」の仕事だし,音作りをするのは「音響」の仕事だ。実際,演出が何をしているのかを明確に語れる人は,アニメ業界人にも多くはないらしい。
 CEDEC+KYUSHU 2023では,そんな演出の仕事に焦点を当てた講演「実は業界人もよく分かっていないアニメーション演出の仕事」が行われた。登壇したのは,アニメスタジオTRIGGERで代表取締役・演出家として活躍,「サイバーパンク: エッジランナーズ」では脚本も書いた大塚雅彦氏だ。

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TRIGGERの代表取締役・演出家である大塚雅彦氏
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アニメの演出とはどういう仕事なのか,最前線の演出家が語る


 大塚氏がCEDEC+KYUSHU 2023で演出について語ろうと思ったきっかけは,演出家を目指す人が減っているという危機感を持ったからだそうだ。デジタル撮影の普及により,セルと背景を集めて不足している素材がないかどうか確かめてから撮影部に渡す「撮出し」の仕事がなくなってしまい,新人演出家を育てる場が失われているため,未経験の人を演出助手として採用するのは,大塚氏が率いるTRIGGERのみになっているのだという。

 その一方,もし演出家がいなければ,作品はちゃんとしたものにならないし,クオリティが落ちたり,納期を守れなかったりといったトラブルが必ず起こるだろう,と大塚氏は語る。
 このように重要な職種ではあるものの,アニメ業界人からの認知度は高い訳ではなく,大塚氏は制作進行の人から「演出家って,要りますかね?」といわれて衝撃を受けたこともあるそうだ。
 大塚氏いわく「アニメ業界の中でも,演出が具体的に何をしているか,説明できる人は少ない」らしく,特殊な職種といえるだろう。

 そんな大塚氏は,演出の仕事について「(アニメシリーズにおける)それぞれの話の監督であると思っていただいて大丈夫」と語る。具体的には絵コンテを描いたり,すでにある絵コンテから意図を読み取って他の職種に指示を出したりするのが,演出における大きな仕事だという。

 大塚氏いわく,演出は「作品制作の最初から最後まで関わり,クオリティを管理する,最も重要な役職」だそうだ。音楽に例えると,楽譜が絵コンテであり,これを見て演奏の指揮をするのが演出の仕事なのだという。
 本来はそうした仕事も監督がやった方が良いのは確かではあるが,テレビアニメの作業量からすると現実的には難しいものがある,と大塚氏。1つの話で使われる動画枚数も昔は3000枚ほどで,アニメーターが10人以下,キャスト(声優)も含めて100人以下で作れていた。

 ところが今は,線も増えて複雑化したデザインを数十人のアニメーターが5〜6000枚の動画にし,キャストも含めて多い場合で200人以上が携わることすらあるそうなのだから,現場の多忙さがうかがえる。
 そうした状況なので,演出はコストパフォーマンスを考えるのも重要な仕事となる。大塚氏が「彼氏彼女の事情」に携わった際は,庵野秀明監督から「700枚の動画で1話作らないか」と持ちかけられ,「これは演出の力が試される」と引き受けて見事成功させたのだという。作画枚数の下限を目指したかなり極端な例であるとはいえ,大塚氏の力量と,演出という仕事の面白さが見て取れる。

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 演出に求められるのは「シナリオの読解力」「作画の知識」「撮影の知識」「映像文法の知識」「人に伝わる程度の画力」だという。シナリオは小説とは異なるルールで書かれているため,知らないと絵コンテを描くことができない。
 作画,撮影,映像文法の知識については,演出本人が作業するわけではないが,それぞれのスペシャリストに指示を出すうえで専門知識が必須となる。

 例えばキャラクターに「手を差し出す」演技をさせるにしても,アニメの場合は手を横向きに動かすか,縦向きに動かすかによって作画の難度が大きく変化する。横向きだと同じ形を引き写していけばいいが,縦向きでは形の見え方がまったく変わるため,こうした知識がないと,大して重要でもないシーンに高難度の作画を要求したりしかねないというわけだ。

 一方,画力については,何を描いたかが見た人に伝わる程度にあれば良いという。氏はスタジオジブリでアニメ制作者としてのキャリアをスタート。演出家の高畑 勲氏と共に仕事をしている。高畑氏がロジカルな説明でスタッフに絵を依頼する様を見て,自分で描かない分だけ演出としての作業が多くこなせるということ,指示を出せることと自分でやれること(この場合は絵を描くこと)は別であることに気付いたという。

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大塚氏が描いた犬。決して達者な絵とはいえないが,犬であることは分かるので演出の仕事に使う分には充分だ
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 そして,演出の仕事は全体を俯瞰し,求められるものを冷静に判断することであると大塚氏は語る。アニメに携わっているとはいえ,職種によって目的や見えてくるものは変化する。
 例えばアニメーターは,職種の性質上,自分が手がけたパートが目立つかどうかを重視しがちな傾向があるという。しかしながら,アニメーションの目的は話を紡ぐことであり,それぞれの作業がこの目的に沿ったものであるかどうかが大切だ。ここで,個人主義的な方向に走りがちなアニメーターを誘導するのが演出の仕事の一つとなる。

 全体を俯瞰するような視点を持ち,求められるものを冷静に分析することにより,様々な職種のパフォーマンスを最適なものとしていく。アニメ作品を監督していると同時に,人も監督していると大塚氏は表現する。こうした視点はアニメ制作のみならず,他業種においても重要になるのではないか,と大塚氏は語った。

 演出(処理演出)の仕事で一番大事なのは「打ち合わせ」であると大塚氏。さまざまな役職の人と打ち合わせを行うが,目的もそれぞれに異なっている。
 「演出打ち」は監督との打ち合わせであり,監督の意図を知ったうえで各所への発注を行っていく。作画監督との「作監打ち」では,監督の意図や作画の注意点を共有。「作打ち」は原画マンとの打ち合わせで,人数分の時間が必要になる。
 そして「美打ち(美術監督との打ち合わせ)」「色打ち(色彩設定,色指定との打ち合わせ)」「撮打ち(撮影監督との打ち合わせ)」と,アニメ制作におけるさまざまな工程のスタッフと打ち合わせをしていく。まさに,アニメ制作の最初から最後まで関わっているというわけだ。

 打ち合わせにしても,漫然とこなすのではなく,精度の高さが求められる。絵コンテを読んで皆に指示を出すとはいえ,絵コンテはモノクロの線画に過ぎないため,ここから色が付いた状態をイメージできなければ精度の高い打ち合わせにはならない。
 ここを「何となく」でやってしまうとクオリティもそれなりのものになってしまう。やり直しさせること自体は簡単だが,これまでの作業が無駄になってしまうし,士気も下がる。そうならないためには,しっかりとした指示を出すことが重要だ。

 大塚氏はこれを山登りに例える。「山を登ってくれ」と漠然としたオーダーをし,相手が山を登った後に「その山じゃない」「山に登るだけでなく,綺麗な街の景色を押さえてほしかった」というような指示を出すようでは話にならない。最初の時点で意図を伝えきれなかったのは演出の責任であるため,ここは山を登ったことでOKとしなければならない,と大塚氏は指摘する。
 しっかりと指示を出したうえでイメージと違うものが出てきたらリテイクする権利はあるが,そうでないリテイクは発注側の落ち度だ。自分が指示を出した責任は自分で負うというわけで,アニメ業界に限らず他者と仕事をするうえで意識すべき姿勢であると感じられた。

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 そして,編集(カッティング),アフレコ,ダビング差し替え,ダビング,ラッシュ,原版組み,V編といった工程を経て作品は完成する。現在の編集(カッティング)は,アフレコに間に合わせるために絵コンテをそのまま撮影することも多い。素人目では「絵が完成してからアフレコをやればいいのでは」となるが,現場側は「絵の完成はアフレコの後でいいでしょう」と,なかなか作業を進めてくれないという。

 この状況を打破するためには締め切りが必要で,アフレコやダビングといったイベントが発生することで,現場に発破がかかるのだという。アニメ制作者ならずも身につまされる話である。
 台詞の長さもこの時点で演出が決めているというのが興味深いところだ。アフレコは演出とあまり関係ないように思えるが,演技指導を行うこともあるし,「絵コンテに何が描かれているか分からない」「台詞の長さが合わない」といったトラブルに対応するために立ち会う必要があるのだという。

 ダビング差し替えは,アフレコで使用した絵コンテ撮の映像を現在完成している最新の映像に差し替えて編集を行うこと。ダビングはSEや音楽を付ける工程であり,映像が完成している状態で行うのが望ましいとされる。TRIGGERでも「オールカラー(セルや背景込みで色がついた状態)でダビングをやろう」と目標を立てたものの,なかなか難しいのが現状だという。ちゃんとオールカラーの状態にできていないと,演出がその場で指示を出さなければならないことがあるが,ここでミスが発生する場合もあるという。

 例えば「メカが飛んでいるシーンです」と指示を受けて飛行音を入れたら,実際の画面ではメカが走っていた,なんてことも起こり得る。こうした裏事情が視聴者に伝わるはずもなく,音響スタッフのミスとされるため,大変に嫌がられるのだそうだ。
 そしてアニメを完成に持っていく原版組みやV編へと工程は進み,オープニングやエンディングのテロップを入れたり,ミスが見つかったりした場合に,なるべく撮影をやり直さないようにして修正するといった作業が行われる。演出が立ち会うこともあるが,リテイクが出た際に手配するためにスタジオに待機することもあるという。こうしてアニメの1話が完成し,放送が行われるのだ。

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 スペシャリストである必要はないが,各工程についての知識は求められる。線のみの絵コンテから完成した色つきの画面を想像するイマジネーションが要ることもあれば,スタッフに指示するロジカルな説明力が試されることもある。演出という仕事は実にマルチなものであり,いろいろな才能を併せ持っていなければ務まらないと感じられた。
 それだけに新人の育成は急務であるといえるだろう。これからアニメを観賞する際,演出という仕事を意識することで,これまでとは違ったものが見えてくるはずで,そうした意味でも興味深い講演だった。

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