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“何も語らない作品”は,いかにしてプレイヤーを引きつけ,導くのか。国内外でファンを増やし続けるジェッペ・カールセン氏のゲームに迫る
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印刷2024/03/08 08:00

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“何も語らない作品”は,いかにしてプレイヤーを引きつけ,導くのか。国内外でファンを増やし続けるジェッペ・カールセン氏のゲームに迫る

 国内外を問わず,近年リリースされるゲームは懇切丁寧な導入部や操作ヘルプが用意されていることが多く,「何も分からないまま,どこかに放り出される」ことは少ない。これは著名なデベロッパによる大作はもちろん,小規模なチームによって開発されるインディーゲームにすら当てはまり,ものによっては序盤〜前半ぐらいが丸々チュートリアルという形で実装されていたりもする。

 また,大がかりなチュートリアルがなくても,複数のゲージやパラメーターを画面内に配置し,現在のプレイ状況を分かりやすくさせるのは,ごく一般的な手法だ。

 これは昔に比べてハードウェアの性能が向上するとともに,ゲームというメディアが成熟したことで,より複雑で重厚な作品を作りやすくなったからであるし,ゲームクリエイター側に「プレイヤーを置いてけぼりにしない」という共通認識が広まったからとも言えるだろう。つまり丁寧に説明をすることによって,取っつきの悪さを低減しようというわけだ。

 その一方で現在でも,画面上での説明を極限まで廃し,プレイヤーに文字や数字を読ませずにゲーム世界へ没頭させようとするクリエイターたちも少なからず活躍している。 
 「Sky 星を紡ぐ子どもたち」「風ノ旅ビト」「Flowery」のジェノバ・チェン(Jenova Chen)氏や,「ICO」「ワンダと巨像」「人喰いの大鷲トリコ」の上田文人氏などのクリエイターを思い浮かべる人が多いだろうが,ジェッペ・カールセン(Jeppe Carlsen)氏も,そのひとりだ。

 カールセン氏の知名度はチェン氏や上田氏に比べると低いかもしれないが,横スクロールアクションの「LIMBO」「INSIDE」を手がけた人物と言えば,ピンとくるゲーマーは多いだろう。The Game Awards 2023で「BEST DEBUT INDIE GAME」を受賞し,D.I.C.E. AwardsやGame Developers Choice AwardsのGame of The Yearにノミネートされた「COCOON」も氏の作品だ。

「LIMBO」の1シーン。まるで映画のように画面内に一切のゲージや文字が存在しない
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 そこで本稿では,カールセン氏の作品にスポットを当て,2013年にリリースされた「140」から,2023年の「COCOON」までを紹介しつつ,そのこだわりに迫ってみたい。氏の作品は,どうやって直接的な説明をすることなく,ゲーマーに道を示してきたのだろうか。


極限まで単純化されたキャラと,音楽による巧みなヒント

「140」


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 カールセン氏の(今も購入できるゲームとしては)最初期の作品となる「140」は,これ以上ないほどシンプルな画面が特徴の横スクロールアクションだ。ゲームを開始して最初に表示されるのは,ツートンカラーに分けられた画面中央の四角形だけで,そもそもこれがプレイ画面なのかすらもよく分からない。

 筆者は世代的にリアルタイムで見たことはないのだが,コンピュータゲームが,テキスト(@など)をキャラクターに見立てていたような時代を彷彿とさせる。言い方を変えれば,あらゆるものを徹底的にそぎ落としたデザインだ。

 待っていても何も起こらないので,ひとまず方向キーを押してみると,四角形が丸に形を変えてキーの押した方に移動するので,そこで初めて“それ”を操作できることに気がつく。
 キャラを左右に動かしているうちに,スペースキーでジャンプできることや,落下(接触)すると死亡する砂嵐のようなエリアがあることも分かってくる。ここまでくれば,本作が「スーパーマリオブラザーズ」のような横スクロールジャンプアクションで,どこかにあるゴールを目指すことが目的なのだと,何となく理解できるはずだ。

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 本作は右端まで行ってもゴールのようなものはないが,シンプルすぎる単色のビジュアルの中で,明らかに異彩を放つ“色分けされた円(球体?)”が宙に浮かんでいることが気になるはず。
 結果としてこれは,ステージの出口を開けるための「鍵」であり,これを半円で表現されたエリアに持ち込むことによって,次のステージに挑める。シンプルさの中にもメリハリをつけて,特に重要なものを見逃さないようになっているのだ。

これだけシンプルな画面だと,白か黒ではないだけで目立つ
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 作中の“ヒント”はこれだけではない。本作には序盤から「一定間隔で現れたり消えたりする足場」が出てくるのだが,そのタイミングの情報は画面内に表示されない。
 一見すると,やられて(落ちて)体で覚えるしかなさそうなのだが,重大なヒントは音楽の中にある。地形やオブジェクトの動きと,BGMとして流れているテクノチックな音楽が同期しているので,タイミングを合わせて動き出せば,しっかりと利用できるようになっているのだ。

 ステージが進むと,消える足場を連続ジャンプで進んでいく場面も出てくるが,音楽のおかげでジャンプするタイミングが掴みやすい。といっても,ジャンプのタイミングではなく,足場への着地をリズムに合わせる必要があるので,そう簡単ではないが……。
 チェックポイントがかなりこまめに置かれており,失敗してもすぐにやり直しが効くのもうれしいところ。

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 結論として本作は,極端にシンプルなビジュアルを採用しながら,きちんとメリハリによる導線を付け,さらに音楽という別のアプローチでプレイヤーに“説明”している,とまとめることができそうだ。見方を変えれば逆にすべてがシンプルだからこそ,各要素の違いに気がつきやすいのかもしれない。


シンプルなビジュアル再び。ただしジャンルはシューティング

「THOTH」


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 2016年にリリースされた「THOTH」は,「140」に続き非常にシンプルなビジュアルの作品だ。全体的にカラフルになっており,3D的な表現もあるのだが,背景も含めほとんどの物体は四角や三角,あるいは円といった幾何学模様で構成されている。
 パッと見では「140」以上に何をしていいのか分からないが,ゲーム自体は2次元で展開されるシューティングゲームだ。

 シューティングゲームと言っても,国内でメジャーな縦/横スクロールのものではなく,画面は固定で,2本のアナログスティック(あるいはキーボードの方向キーとマウス)で自機の移動とビームの発射を行うという,いわゆるツインスティックシューター。ゲームはステージ制となっており,画面内の敵をすべて倒すと先に進めるシンプルなルールだ。

厳密に言えばステージの番号が背景に描かれているが,パッと見では分からないようにデザインされている
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 操作方法さえ覚えてしまえば,迷うことはほとんどないだろう。敵に当たれば一撃死してしまうし,敵は攻撃を食らうほど色が失われていくから,それ耐久度であることも自然と理解できる。このため,自分や敵の体力ゲージのようなものは当然表示されない。弾数制限もない。

マウスボタンを押したり,アナログスティックを倒したりするだけで高速連射。弾自体のスピードも速い
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 THOTHのゲームシステムのキモになっているのは,「自分が弾を発射しているときは移動速度が落ちる」ことと「敵は倒しても消滅せず,速度を上げて猛追してくる」ことだ。つまり弾は無限だが攻撃一辺倒では追いつかれる可能性が高まり,敵を無計画に倒していると簡単に追い詰められてしまう。そのうえ,攻撃を当て続けないと敵の耐久力はどんどん回復するし,時間経過に応じて自由に動けるフィールドが狭まるステージも多い。

 つまり本作はシューティングゲームでありながら,「どのタイミングでどの敵を攻撃するのか」「そのタイミングをどう作るか」を瞬間的に判断し続ける,リアルタイムのパズルゲームのような作品だと個人的には思う。
 勘や反射神経に頼ったプレイも可能だが,難度自体はそれなりに高めだし,コンティニューも4ステージごと(いわゆる戻り復活)なので,延々と同じステージを繰り返すことになる可能性は高くなるだろう。

 シューティングというジャンルはカールセン氏の作品では珍しく,それも含めて異色の印象を受けるが,思った以上のパズル性の高さと,何度も死を繰り返して正解を掴んでいくゲーム性には“らしさ”を感じられると言えそうだ。


世界観に圧倒的な深みが出た

「LIMBO」


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 さまざまなプラットフォームに移植され,モノトーンながら美しいグラフィックスと,終始徹底した“語らない”作風で多くのプレイヤーに強いインパクトを残した作品が「LIMBO」だ。ゲームをスタートすると人間の少年らしき存在が動き出し,ひたすらに森を駆けていく。

 後戻りはできないので右へ右へと進んでいくことになるが,道中にはさまざまなトラップや進行不能となるギミックが用意されており,それをジャンプとオブジェクトへのアクションだけで切り抜けていく。
 いわゆる“敵”やそれに準じるお邪魔キャラのような存在も多いが,少年に直接的な攻撃の手段はなく,タイミングを合わせて逃げ出すか,地形やトラップなどを駆使してしのがなければ,先へは進めない。敵に追われたときに正解を見つけられなければ,待っているのは死だけだ。

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 それにしても本作の主人公は,容赦なく悲惨な目に遭う。溺死,圧死,転落死,串刺し……とこれだけで死因の辞書を作れそうな勢いだ。それなのにゲーム中では,「なぜ彼が危険を承知で先に進むのか」の説明が一切ない。唯一あるのは“ゲームの外”,オンラインストアの説明に書かれた「運命に逆らい,妹を探して少年は LIMBO の世界に足を踏み入れる」という一文だけ。しかしこれすらも事実なのか,プレイヤーが確かめるすべはなく,死とリトライを繰り返し少しずつ先へと進んでくしかない。

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 本作のゲームデザインはいわゆる「死にゲー」に当たると思うのだが,それでも繰り返しのプレイが苦痛にならないのは,リトライポイントが細かく用意されているからだろう。極端に言えば「死に場所ごとに復活できる」仕組みになっているため,すぐに再開して試行錯誤できるし,(広い範囲を探さなくても)死を回避できる“何か”が用意されていることが一目瞭然なのだ。
 要するに注視しなければいけない場所が自分を中心とした狭い範囲のため,わざわざ文字によるナビや目立つガイドを用意するまでもない,ということになる。

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 ちなみに本作を「140」と比べると,先に進むためのギミックは背景に溶け込んで若干分かりにくくなっているし,明確なヒントとして流れていたBGMも環境音だけになっているなど,見た目に以上に違った方向性が感じられる。ジャンルこそ同じ横スクロールアクションで,テキストを廃しているのも同じだが,コンセプトは明確に異なる作品と言えるだろう。


描写が現実に寄った分,不気味さも増した

「INSIDE」


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 「INSIDE」は「LIMBO」と同じく,少年を主人公にした横スクロールアクションだ。ただしグラフィックスはモノトーンの幻想的な雰囲気から一変し,非常に写実的になっている。一見すると,現代をモチーフにしたリアルなパルクールアクションか何かのようだ。

 ゲームシステムそのものは大きく変わらず,できることは左右への移動とジャンプ,そして道中に置かれたオブジェクトへのアクションだ。物を押す,何かに登る,機械を起動するなど場所に応じたアクションをこなすことにより,先(右)へ進むことができる。リトライポイントが細かく用意されているのも同じで,先に進めなくなる場所ごとにセーブポイントがある,といった感じだ。

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 「LIMBO」との大きな違いとしては,主人公の少年が常に何かに追われている設定が挙げられる。それは人間だったり,犬だったり,ロボットだったりするのだが,それゆえに前作と比べステルス要素が重要になっており,逃げるだけでなく紛れたり隠れるたりすることも求められる。
 失敗すると酷い目に遭うのは前作譲りで,高低差が激しい地形で足を踏み外したり,話の通じない連中への対応を間違えたりすると,かなり悲惨なことになってしまう。リアルさが増しただけ,後味も悪い。

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 失敗を繰り返しつつ先に進んでいくと,一見リアルで現実と変わらないように見えた世界が,実は異常な管理社会であり,一種のディストピアのようなものだと気がつく。そんな社会の被害者だと思われるのが,生気なく歩いている人々であり,頭にかぶった装置によって“操作”されてしまう実験台らしき存在だ。説明がないので主人公(プレイヤー)の立ち位置は分からないのだが,彼らを道具として利用しないかぎり,先に進めないのは一種のブラックジョークなのかもしれない。

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 「INSIDE」は前作である「LIMBO」と共通点が多く,兄弟のような作品で,相変わらずゲーム内では誰が何のために何をしようとしているのか,何も説明されない。しかし同じ“想像に任せる”という作風でも,描かれるものによって,受ける印象がまったく異なってくるのは興味深いところだ。


複雑なシステムをシンプルに表現

「COCOON」


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 カールセン氏が手がけたゲームの最新作となる「COCOON」は,前作まではとはかなり毛色が違った作品だ。ジャンルとしては見下ろしタイプのアクションパズルであり,主人公は昆虫のような見た目の存在なのだが,今回もはっきりとした説明はないので,どう理解するかはプレイヤーに任されている。舞台設定としては有機物と無機物が複雑に入り交じった,独自の生態系がある星といった雰囲気だ。

 本作の軸となっているのが,プレイ中に複数入手することになるオーブだ。最初はオレンジ,次はグリーン……といった形で種類が増えていき,それぞれの能力により,行動範囲が広がるようになっている。例えばオレンジのオーブなら特定の場所で橋が架けられる,グリーンなら緑色の液体のような場所を移動できるといった感じだ。

 筆者の個人的な感想だが,(実際のプレイフィールはかなり異なるものの)「ゼルダの伝説」などに通じるところがあると感じた。

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 ただし,オーブの仕様は独特で,これが本作ならではの面白さを生んでいる。ギミックを動かしたり,背負って前述のアクションを行ったりといったことができるだけでなく,なんと「オーブ自体が一つの世界」になっているのだ。

 特定の場所にオーブを設置すれば,その内部に自由に出入りでき,あるオーブを別のオーブの中に入れてしまうこともできる。オーブは一つしか持ち歩きできないが,そのオーブを入れ子にすることによって,まとめて運んだり,あるオーブ世界の中にあるギミックを別のオーブの力で作動させたりできるわけだ。非常に独特な感覚で,筆者はドラえもんの四次元ポケットを思い出してしまった。

 この構造を取り入れた本作のステージは,これまでに紹介したカールセン氏の作品に比べるとかなり複雑だ。また,“前例”がないという点で,ゲーム中における説明のハードルは高くなる。

 例えば「140」では,最初こそ戸惑うものの,一度キャラを動かせば横スクロールアクションだということは分かるし,「LIMBO」のプレイヤーも,トロッコがあればとりあえず押してみる,天井からロープが下がっていたら掴まってみるといった行動を取るだろう。
 だが,予備知識なしで「COCOON」のプレイを始めた人は,オーブの中に世界があるなどとは思っていないはずで,それを言葉なしで説明するのは簡単ではない。

 にもかかわらず,本作をプレイした人の多くは,この複雑な構造を,言葉や数字がないプレイの中で理解していく。筆者も,この原稿を書く段になって「説明された記憶はないのに,なぜか自然に理解していた」ことに気がついた。

 それが実現できている要因は,やはりカールセン氏らしい,シンプルさの追求にあると思われる。具体的には以下のような感じだ。


  • ゲーム中のギミックを作動させるツールは,ほとんどの場合オーブになる。そのためプレイヤーは,(明確な使用目的がなくても)自然とオーブを持ち歩くようになる
  • ギミックの数とともに対応するオーブの数も増え,複数のオーブを使いこなす必要が出てくるが,それらを同時に持つことはできない。そのためプレイヤーは自然と複数のオーブを運ぶ方法を探すようになる
  • オーブは台座のようなものの上にしか置くことしかできないが,何らかの装置のようなものにつながっている台座が多く,プレイヤーがオーブを置いてから作動させたくなるつくりになっている(これによってオーブ世界に入れる)
  • そうやって入ったオーブの中にも台座がある。つまりオーブの中にオーブを持ち込めること,つまりは2個(以上)同時に運べることに気がつく



 ギミックの動作ツールをオーブに限定し,(物理的に)持てるオーブは1個のみ,置ける場所をオーブ世界への入口にするなど,余計な要素を排除してプレイヤーを迷わせないことで,説明がなくともプレイヤー自身から理解するようになっているのだ。

 操作方法も氏の作品らしくシンプルで,アナログスティック(十字キー)で移動を行い,あとはボタン一つでオーブを運んだり,ギミックを動かしたりするだけ。従来作にあった“謎解きのミニマムさ”も健在で,先に進めない場合は必ず周囲にギミックがあるし,ヒントも近くに隠されていることが多い。とはいえ難度にはバラツキがあり,サクッと解けることもあれば,オーブを持ったままウロウロしてしまうこともたまにあった。

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 なお,本作には途中でいくつかのボス戦が用意されており,倒さないと先に進むことができない。とはいえ難度はあまり高くないので,道中は謎解き,ラストはアクションと,メリハリの効いたプレイが楽しめるのは好印象だった。
 また謎解きは,「オーブをどう使うか」と「先に進むには何を動かせばいいか」だけを考えればいいのが,説明がなくてもプレイしやすい理由だろう。

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 カールセン氏のゲーム作品を一通り紹介してみたが,いかがだっただろうか。氏のゲームはどれもパズル要素が強いが,世界観はどれも違っているし,プレイフィールも異なる。画面写真だけを見れば,(「LIMBO」と「INSIDE」を除いて)まったく違った作品にしか見えないだろう。

 だがその作風の根底には,「徹底した操作の単純化」「小さく区切られた最小単位の謎解き」という共通点がある。ボタンが1個しかなければそれを押すか離すしかないし,移動できる範囲が限界まで狭ければ,ギミックもヒントも自然に目に付く。選択肢を狭めることにより,回答への近道を自然と示すことができ,(THOTHという例外もあるが)瞬時に失敗した場所からやり直せることにより,繰り返されるリトライの心理的な障壁をなるべく下げる。そんな美学が氏の作品からは感じられる。

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 「COCOON」に続く作品はどんなものになり,ゲーマーをどう楽しませるのか。今後の活躍にも期待したい。
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