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色彩はゲームに何をもたらしているのか。ポケモンカードからサイバーパンクまで,色彩設計とゲームの深い関係
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印刷2024/03/08 08:00

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色彩はゲームに何をもたらしているのか。ポケモンカードからサイバーパンクまで,色彩設計とゲームの深い関係

 ゲームの中ではさまざまな役割を果たす。時にそれはプレイヤーのシステムへの理解を補助したり,プレイヤーの感情を動かしたりする。このコラムではそんなゲームの中で果たす色の役割を見ていきたい。

 「ポケモンカードゲーム」では,色はゲームのルールと深く関連している。カードの地の色やアイコンの色は,エネルギーと呼ばれる属性と結びついていて,パッとカードを見るだけでそのカードがどのエネルギーに関係しているかがわかるようになっている。

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みずタイプのシャワーズ,みずエネルギー,かみなりエネルギー,でんきタイプのサンダースのカード

 「マジック:ザ・ギャザリング」「遊戯王オフィシャルカードゲーム」のようなほかのカードゲームも,カードの色はそれぞれのゲームのルールと結びついている。ゲームにおいて,色はプレイヤーに物体の機能を伝えるための手段になるのだ。読者諸氏も,そうした例はいろいろと思い浮かぶことだろう。

 また,色と機能の結びつきは,その作品や置かれている文脈によって異なる意味を持つ。色と機能は統一的に一対一で対応しているわけではない。

 たとえば「DARK SOULS」「DARK SOULS 3」では,毒は紫色で表示され,画面内のエフェクトもUIに表示されるアイコンも,毒は紫色と結び付けられている。毒を治療するアイテムも「毒紫の苔玉」だ。しかし,「DARK SOULS 2」では,毒は緑色のエフェクトで表現される。さきほど例に出した「ポケモンカードゲーム」では電気は黄色に属する一方,「マジック:ザ・ギャザリング」では電気は赤色に属する。

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「DARK SOULS 3」で毒の霧にやられる主人公。画面左の毒の霧も、画面中央下部に表示される毒のゲージとアイコンも共に紫色で統一されている。以下,カラーチャートの作成はカラーサイト.comを利用した

 このように,プレイヤーは色の機能をゲームごとに学習しながら,習熟していく必要があるのだ。

 画面の中の一部の色だけではなく,画面全体の色調もゲームのシステムと結びつく。アクションゲームではダメージを受けると画面全体が赤くなったりするし,体力が減っていくと画面がモノクロになっていったりする。 対戦FPSの「Apex Legends」ではこの両方の色彩効果が取り入れられており,体力が減っていくと次第に赤いエフェクトがかかっていき,死亡するとモノクロになるという演出が使われている。

 ゲーム文化に慣れ親しんだプレイヤーは,画面が赤くなったりモノクロになったりしても驚かず,それが何を意味するかを自然と理解している。ゲームに親しむとは,そうした色の機能を学んでいくことでもある。

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「ディスコエリジウム」のタイトル画面。青とオレンジを対比させつつゲームの舞台となる街を描いている

 映画や絵画と同様に,ゲームの色彩はゲームシステムと関わらないもっと曖昧な効果も持つ。「ディスコエリジウム」に登場する街,マルティネーズは,色彩によってその性格が表現されている。

 街はアスファルトや石畳や建材の灰色と,雪の跡の白色で構成されており,全体的に彩度が低い。寒色も多くどこかよそよそしさを感じさせるのだが,差し色で効果的に暖色が使われており,懐かしさをかきたてる。

 主人公の記憶喪失に陥った刑事が感じる街への疎外感と,記憶の奥底にある親しみが,色を使って丁寧に表現されているのだ。

 街中にみられる暖色のアクセントは,タイトル画面に描かれる夕陽のアートワークと相まって,往時の勢いを失い没落していくマルティネーズの象徴にも感じられるだろう。

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「Stray」のプレイ画面。画面中央の赤いネオンと,画面奥の青い光が強いコントラストを作り出している
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「サイバーパンク2077」のナイトシティの画像。夜の街に青いネオンとピンクの光が反射している

 色彩はジャンルを表すこともある。サイバーパンクのようなジャンルはその筆頭だ。

 「サイバーパンク2077」「Stray」「VA-11 Hall-A」など,大作からインディーゲームまで,現代のサイバーパンクゲームはピンクやブルーのネオンカラーと黒の対比で構成されていることが多い。赤〜オレンジ系の暖色のライトが多用されるのも現代のサイバーパンクゲームの特徴の一つだ。

 ゲームの中で発光するピンクやブルーのネオンと現実の空間で発光するモニタの光が重なり合い,独特の美しさを作り出すこの色彩は,現代におけるサイバーパンクなゲームの象徴ともなっている。

 ネオンの輝きは,ここ数年で隆盛してきたレイトレーシングによるレンダリングとも相性がいい。一つひとつの光の軌跡を追って作られるレイトレーシングによる精度の高い反射表現は,濡れた地面に写り込む都市の輝きを的確に表現する。

 またサイバーパンクのゲームは,ジャンルのイメージカラーが時代によって異なることを如実にあらわす。

 たとえば1998年に発売された「METAL GEAR SOLID」では,デジタルな空間は緑色などでまとめられていた。この時代のゲームには,「ファイナルファンタジーVII」に登場する都市ミッドガルのように(明らかにサイバーパンクのディストピアのイメージに影響を受けている)SF的なイメージ自体に緑色が用いられていた。

 一方,2011年に発売された「デウスエクス」では,サイバーパンクなイメージは黄色からオレンジの暖かみのある色でまとめられている。同年に発売されたサイバーパンクゲーム「E.Y.E: Divine Cybermancy」も同系統の色を使ってサイバーパンクのイメージを作り出していた。

 こうした色のイメージの変化は映画にも見られる。1995年のサイバーパンクアニメ「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」では緑や青が用いられていた一方,その続編である2006年の「イノセンス」では暖色がメインになっていた。ピンクやブルーの濃いライティングは直接的にはサイバーパンク作品ではないが,2013年の「オンリー・ゴッド」のあたりからよく見られるようになった表現だ。サイバーパンク映画では2017年の「ブレードランナー 2049」でもこうした色彩が取り入れられている。時代によって色のイメージは変化し,ジャンルも変容していくのだ。

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「ELDEN RING」で最初に踏み入れるオープンフィールド,リムグレイブの画像。地上にも空にも黄色と緑色の系統の色が配されている
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「ELDEN RING」のチュートリアルエリア,漂着墓地の画像。暗い洞窟の中で、黄金色に輝く樹木が行手の階段を照らしている

 「ELDEN RING」もプレイするたびにその色彩の美しさに感嘆させられるゲームの一つだ。

 ゲームで最序盤に送り込まれるチュートリアル・ステージ「漂着墓地」は暗く狭いダンジョンで,ゲームのキーカラーである黄金色に発光する樹木と暖かく燃える松明がところどころに置かれている以外は,ほとんどモノクロームに近いほど彩度が最小限に抑えられている。

 しかし,このチュートリアルダンジョンをクリアして長いエレベーターを登って扉を開けると,一転して色鮮やかにどこまでも広がる外の世界があらわれる。地面を覆う緑の植物,空に広がる深い青,そしてさっきまでいたダンジョンにもあった黄金に輝く樹。

 モノクロだった地下のステージからの転換がとても印象的だ。この変化は,「ELDEN RING」を作った宮崎英高氏の過去作であるRPG「DARK SOULS」シリーズの,色数を抑えたカラーリングからの変化とも重なっているように感じられる。

 狭く暗い通路を重ねたステージからどこまでも広がるオープンな環境へ,という「DARK SOULS」から「ELDEN RING」へのコンセプトの変化を,彩度の低い画面から色数の多い画面へという色彩の移り変わりを通して感じられるのだ。

 DICEによるパルクールゲーム「Mirror's Edge」シリーズは,色彩設計による世界観の提示とゲームプレイの補助を同時に行っている。

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「Mirro's Edge」のチュートリアルエリア。白を基調としたビルが立ち並び,画面左奥に赤い踏切板がある

 「Mirror's Edge」はランナーと呼ばれる運び屋が,近未来的な都市のビル群をジャンプやスライドを駆使しながら駆け抜けていく様子を描くシリーズだ。

 ランナーたちは強力な管理社会の中で唯一,自由な存在であるとされる。シリーズではステージとなるビル群は白を基調とした無機質な色で表現されており,植物やプランターのような本来ほかの色を持つはずのものも,時に白一色で描かれる。

 そんな中で鮮烈な印象を残すのが,ところどころにある赤いオブジェクトだ。「Mirror's Edge」にはビルからビルへと飛び移り目的地へとたどり着くためのルートを自分で探していく要素がある。これらの赤いオブジェクトはその目印となるものだ。プレイヤーは白い街の中を,赤く表示されたパイプや踏切板を探して走り回ることになる。

 これらの赤く表示されるオブジェクトは,白く冷たい都市の中ではまるで血の色のように見え,生々しく印象に残る。それはゲームプレイを誘導するものであると同時に,統制された都市空間を自分の体を使って駆け抜けるランナーたちの生を示す色彩でもあるのだ。

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「Goodbye Volcano High」の主人公、ファングの画像。画面左奥にある本棚に詰め込まれた本も紫色っぽい色になっている

 色はさまざまな意味を象徴するが,色が意味するものも時代によって変化してきた。色が象徴する現代的な意味の一つに,セクシュアルマイノリティの存在がある。

 「Boyfriend Dungeon」に登場するノンバイナリー(男女という二分法にあてはまらない性)のキャラクターであるソーヤは,攻撃の時に発生するエフェクトが青・白・ピンクの三色になっている。これは同じ色から構成されているトランスジェンダーのプライドフラッグを意識したものだろう。

 同じような例に恐竜人間の高校生活を描く「Goodbye Volcano High」の主人公であるファングがあげられる。彼人(ノンバイナリーの代名詞であるThey/Themの訳語)もまたノンバイナリーであり,白っぽい肌の色と黒い服に紫のアイシャドウとオレンジの瞳という色彩は,ノンバイナリーフラッグの色彩を想起させる。

 また,バイセクシュアル女性の人生を描く荷解きゲーム「Unpacking」のタイトル画面や最初のステージで使われるピンクや青,紫の色彩は,バイセクシュアルフラッグの色を思わせるとi-D magazineのChristina Sylvesterは指摘している。 (※)

※「How a video game about unpacking gets the bisexual experience spot on」https://i-d.vice.com/en/article/7kbj54/unpacking-bisexual-video-game (最終アクセス2023年12月6日,現在リンク切れ)

 最後に色覚多様性についても触れておきたい。人間の色覚にはいくつか種類がある。90%以上の人はC型と呼ばれる色覚を持つが,それ以外にP型,T型,D型など,異なる色覚を持つ人たちがいる。

 こうした色覚を持つマイノリティは,C型色覚を持つ人を想定して作られた色遣いを区別するのが難しいことがある。暖色同士,寒色同士の色の見分けがつきにくい,などはその代表的な例だ。

 筆者が初めてゲームでの色覚多様性を意識したのは2015年に発売された「Mini Metro」だった。

 白紙の地図に色とりどりの路線図を作るミニマムなヴィジュアルが高く評価されたこのゲームでは,色覚多様性を考慮したオプションが初期から搭載されていた。

 現在では多くのゲームで色覚多様性に関するオプションが搭載されているし,弱視者向けに敵や味方の輪郭を蛍光色で強調するオプションのあるゲームも少なくない。

 ゲームにおける色彩はその場の感情を伝えたり,ジャンルを示したり,象徴的な意味を持つだけでなく,ゲームのルールと結びついたり,またアクセシビリティを向上させたりもする。

 ゲームの色彩設計の芸術性は,ゲームシステムと結びついた色がどのようにプレイヤーに機能するか,という点まで含めて評価されるものだろう。
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