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Access Accepted第756回:待ったがかかったマイクロソフトによるActivision Blizzard買収計画。巨額買収劇の行く末は果たして……
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印刷2023/05/01 08:00

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Access Accepted第756回:待ったがかかったマイクロソフトによるActivision Blizzard買収計画。巨額買収劇の行く末は果たして……

画像集 No.002のサムネイル画像 / Access Accepted第756回:待ったがかかったマイクロソフトによるActivision Blizzard買収計画。巨額買収劇の行く末は果たして……

 MicrosoftによるActivision Blizzardの買収計画に待ったがかかった。イギリスの公正取引委員会である競争・市場庁(CMA)が,クラウドゲーム市場における寡占化の懸念を理由に,買収を承認しないと4月26日に発表したためだ。今週はこの出来事の経緯と今後の展望をまとめていく。


巨額買収にイギリスの監督機関が「待った!」


 4月26日,イギリスの公正取引委員会である競争・市場庁(CMA/Competition and Markets Authority)が,その最終レポートによってMicrosoftによるActivision Blizzardの買収提案を却下するという判断を行った。

 CMAが公式プレスリリースで説明しているとおり,今回の買収提案を却下するに至った理由は,CMAが事前に示していた,「クラウドゲーム市場が寡占状態に陥り,成長分野において競争が抑制され,国民の選択肢が少なくなることにつながる懸念」に対してMicrosoftが十分な対処をしなかったためだ。

 この買収劇は,ゲーム市場におけるプレゼンスのさらなる向上を目指すMicrosoftが,Activision Blizzardを687億ドルで買収すると2022年1月にアナウンスしたところから始まった。以降,独占禁止法に絡むさまざまな審議が続けられてきたが,Microsoftにとっていい方向には進んでおらず,当初予定されていた「2023年第2四半期」での審議終了というゴールに至る気配は見えていない。

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Microsoftに買収されることになったActivision Blizzard。その話題から1年近くが経過したが,あまりにも大きな買収であるため,各国での独禁法審査も厳しく,進みは悪いようだ。年始に話題を集めたMicrosoftとActivision Blizzardの買収についての現状をまとめておこう。

[2022/12/05 13:30]

 Microsoftも静観しているだけでなく,さまざまなアクションは仕掛けていた。一例を挙げると,ソニー・インタラクティブエンターテインメントや任天堂に対して,Activisionの人気シリーズ「Call of Duty(CoD)」を今後10年間提供すると表明していたが,CMAはそれだけでは満足していなかったということだろう。

 CoDという巨大フランチャイズの重要性について,Microsoftは審議の中で「PlayStationプラットフォームにおけるCoDシリーズの収益は10〜20%程度であり,同社のさまざまなエクスクルーシブタイトルの成功を踏まえると大きなロスではない」というようなことを述べていた。これに対して,ソニー・インタラクティブエンターテインメントは「CoDからの収益は20%以上ある」と発言していたようだが,その証拠は提出されていないという。

 10%であれ20%以上であれ,その収益が失われることを単純な損失と考えるのか,もしくは新しい機会につながると考えるかは双方の立場で異なるだろうが,CMAは,3月24日に発行したプレスリリースにおいて,「もしCoDシリーズがXboxプラットフォーム専用になれば,(ほかのプラットフォームで売れなくなれば)市場価値の低下やプレイヤー数の減少で収益は減少する」という見方を示した上で,「競合サービスにも更なるイノベーションを誘発する」という見解を示していた。

 このことから,「CMAの買収懸念は軟化しており,4月の評定ではMicrosoftに有利な方向で結論が下される」とMicrosoftや一部のメディアからは楽観視する声も出ていたのは確かだ。しかし今回の最終レポートは,CoDシリーズの問題ではなく,クラウドゲーム市場の寡占化による市場への影響が焦点となっていた。邪推な表現になってしまうが,「まだ成長していないクラウドゲームへのコンテンツ先行投資で,独占を計ろうとしてんじゃないの?」ということだろう。

イギリスの競争・市場庁(CMA)
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急成長が見込まれるクラウドゲーム市場を巡って


 CMAの報告によると,イギリス国内におけるクラウドゲーム市場は,2021年初めから2022年末までで3倍以上成長しており,2026年までには全世界で最大110億ポンド(約15兆3400億円)まで市場が拡大すると予測されている。そのうち,イギリス市場は最大10億ポンドほどの価値を占めるとのことだ。

 Microsoftは,すでにクラウドゲームのサービスにおいては確固たる地位を築いており,推定で60〜70%の市場占有率になっているという。同社は,Xboxプラットフォームに加えて,オペレーションシステム(Windows OS)やインフラ(Azure及びXbox Cloud Gaming)を有しており,Activision Blizzardの買収によって有力なソフトウェアコンテンツが加わることで,その地位が揺るぎないものになってしまうと懸念されたわけだ。

 CoDシリーズばかりに焦点が当たりがちではあるが,Activision Blizzardには,「オーバーウォッチ」「Starcraft」「World of Warcraft」といった各ジャンルで高いプレゼンスを示す作品があるほか,β版から好評で6月に発売を予定している「ディアブロ IV」,Microsoftが「モバイルゲーム市場への再参入の良い機会になる」と表現するKing.comの「キャンディ・クラッシュ」も存在する。

 今回のCMAの判断に対して,MicrosoftとActivision Blizzardの双方は,すぐさま上訴することを表明している。Microsoft社長のブラッド・スミス(Brad Smith)氏は,自身のTwitterに公式声明を掲載し,「CMAの決定は,競争上の懸念に対処するための現実的な道を拒否し,英国における技術革新と投資を思いとどまらせます。我々はActivision Blizzardの人気ゲームを1億5000万台以上のデバイスで利用できるようにする契約をすでに締結しており,規制上の救済策を通じて,これらの契約を強化することに引き続き取り組んでいきます。長い審議の末のこの決定は,ゲーム市場と関連するクラウド技術が実際にどのように機能するかについて,誤った理解を反映しているように見えることに特に失望しています」と発信した。

 また,Activision BlizzardのCEOであるボビー・コティック(Bobby Kotick)氏も,全従業員にあてたメールを公開しており,「英国はテクノロジーにおけるリーダーシップの地位を高めることを望んでおり,MicrosoftとActivisionが統合すれば,まさにそれが達成されるでしょう。機械学習と人工知能の分野が盛んな時期に,英国市場は両方の分野でマイクロソフトのベンチの強さと,これらのテクノロジーをすぐに使用できる当社の能力から恩恵を受けられます。対照的に,CMAの決定が有効となる場合には,英国のゲーム業界全体で投資,競争,および雇用創出が抑制されることになるでしょう」と強気のアピールを行っている。

CoDシリーズのPlayStationやXboxプラットフォームでの占有率が10〜20%というのはものすごい影響力だ
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ブラッド・スミス氏が公開した声明文。CMAの報告書は“最終レポート”とされているが,まだ上訴する余地はあるようだ
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もしも買収合意が最終的に却下されると……


 MicrosoftによるActivision Blizzardの買収について,日本の公正取引委員会は3月28日に,「一定の取引分野における競争を実質的に制限することになるとは言えない」という審査の結果を公表している。また,サウジアラビア,ブラジル,チリ,南アフリカ,セルビア,ウクライナなどでも認可済みだ。

 アメリカの連邦取引委員会(FTC/Federal Trade Commission)が独占禁止法への抵触を嫌疑し,告訴するという事態は,以前の連載記事でも解説したとおりだが,5月22日に先送りされているEUでの審査決定表明には,今回のCMAの判断が少なからず影響を及ぼすことになるだろう。

 現状において,7月18日までにCMAへの上訴が受け付けられないか,同じ審査結果となれば,Microsoftは買収合意の承認の延長を交渉した上で,CMAが納得できる新しい提案を示さなければならない。また,FTCでの公聴会は8月2日に予定されているが,仮にMicrosoftが新しい提案を用意できなかったり,CMAやFTCがその内容に難色を示したりすることがあれば,今回の買収合意が御破算となってしまうことはあり得る。その結果として,MicrosoftがActivision Blizzardに対して30億ドルの賠償金を支払う義務が生じるのは,すでに公開されている買収内容で明らかにされているとおりだ。

 30億ドル――日本円換算でおよそ4000億円を超える膨大な資金であり,Activision Blizzardにとっては魅力的な結末にも思える。だがそれは,結束が固いとされる同社の経営陣の刷新が滞ることも意味しており,その先を考えれば,ボビー・コティック氏はCEOの座をキープしたいところだろう。しかし,コティック氏は長年にわたる労働環境の悪化に手を打ってこなかったばかりか,不祥事の隠ぺいもしていたと報道されており,CEOに居座るとなると,労働争議が起こりかねないし,有能な開発者離れを起こす要因にもつながるだろう。

 何より,今回のCMAの報告書が公開されて,株価が9%ほど下落してしまったことからも,株主たちがMicrosoftによる買収を肯定していたのは間違いない。そうなると,クラウドゲーミングなど新手のゲーム技術の開発で焦りを感じているActivision Blizzardは(関連記事),新しい身売り先を探すことになると思われるが,この規模の買収を成立させられる企業はそれほど多くない。

 AppleやGoogleはゲーム開発にそこまで関心がなさそうだが,クラウドサービス「Luna」を展開するAmazonや,Microsoftと並行して買収交渉を始めようとしていたMeta,あるいは中国のTencentなどが相手になるのはあり得るだろうし,「第754回:油田からゲームへ。次世代ゲームハブへと転身を図るサウジアラビア」で紹介したSavvy Games Groupが手を上げるかもしれない。ただし,結論が出ていない現時点で,これらはすべて空論でしかない。

 一方のMicrosoftは,1四半期で500億ドルという収益を上げており,Activision Blizzardの買収合意が破算することは戦略上の痛手となっても,経営上の損失は大きくないと思われる。買収決裂で浮いた650億ドルほどの資金を使い,さらなる企業買収を続け,より魅力あるGame Passのラインナップを構築していくことに努めるはずだ。この買収劇がどのように着地するのか,そのときゲーム業界の未来はどのように進んでいくのか。今後の行く末にも注目しておきたい。

Activision BlizzardのCEOであるボビー・コティック氏も,「私自身ができるすべての手段を使って,規制当局が私たちの業界における競争力のダイナミクスを理解することを支援するために奮闘します」と表明している
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2019年時点では,クラウドゲーミングやAI分野において協力関係を構築しようとしていたMicrosoftとソニー(関連記事)。この話についての進展はあるのだろうか
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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