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わずか5人のチームが追加DLCの無料配信に挑戦。「Thea:The Awakening」のデベロッパが二度の無料DLC配信で学んだ知見とは
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印刷2016/10/25 00:00

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わずか5人のチームが追加DLCの無料配信に挑戦。「Thea:The Awakening」のデベロッパが二度の無料DLC配信で学んだ知見とは

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 昨今のゲームでは,発売後に追加ダウンロードコンテンツ(DLC)を提供するというビジネスモデルが浸透しており,インディーズゲームでもその傾向が強くなってきている。
 大手のゲームメーカーでは,ゲーム本体の売上増加を狙うために宣伝の一環としてDLCを無料で提供するといった施策も見られるが,人員や予算が限られたインディーズデベロッパでは,採算を取るためにDLCを有料で提供せざるを得ないケースが多い。

 しかし,「Thea: The Awakening」(以下,Thea)を開発したMuHa Gamesは,わずか5人のチームにもかかわらず,2つの追加DLCの無料配信に挑戦した。
 Game Industry Conferenceで行われた講演に登壇したMila 'Yuuki' Irek氏曰く「暴挙」だったというこの取り組みは,果たして割に合うものだったのだろうか。本稿ではこの講演の模様をお届けしよう。

「Poznań Game Arena」公式サイト

「Game Industry Conference」公式サイト


MuHa GamesのMila 'Yuuki' Irek氏
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 Irek氏は最初に,インディーズデベロッパ,しかもコアメンバー4人とプログラマー1人しかいないチームにとって,無料DLCを提供するのは1つの冒険だったと語った。
 MuHa Gamesが開発したTheaは,2015年11月にリリースされたタイトルだ。プレイヤーにも評価されていて,有料のDLCを投入すれば相応の売上が見込める状態だったが,それでもMuHa Gamesは新しいDLCを無料で提供することを決意した。彼らなりの勝算があったというのも理由の一つだが,「論より証拠」でトライしてみたいという部分もあったという。
 こういった冒険をするにあたって,Irek氏は「小規模なチームであることは有利に機能した」と語る。大きな会社であれば,説得力のある事実を並べた企画書であったり,出資者や社内スタッフの説得であったりと,実現するまでの工程が大きく増えるからだ。

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 そして,Theaの発売から5か月後となる2016年4月に,DLC「Return of the Giants」(以下,Giants)がリリースされた。もちろん,当初の予定どおり無料である。
 Irek氏は,DLCの開発にあたって,とくに人的資源の確保が大変だったと語る。新しいゲームメカニクスやシナリオの追加をはじめ,イベントエディタの制作,そして4か国語分のローカライズなど,作業はてんこ盛りだったからだ。

 さて,そのGiantsがどうだったかというと,ビジネス的には見事に失敗で,Irek氏はその理由として2つの要因を挙げていた。
 1つがリリース時期。Steamでは,Giantsリリース直前のタイミングでイースターセールが行われ,そのタイミングでThea本体が大いに売れたという。そのこともあって,Giantsをリリースしてもゲーム本体の売上にはほとんどつながらなかったそうである。
 もう1つがローカライズのコストだ。Giantsでは,英語で作られたテキストをフランス語,ドイツ語,ポーランド語,ロシア語に翻訳したのだが,翻訳する文章量が多かったことに加え,ボイスオーバーのローカライズまであったため,コストが跳ね上がってしまったという。

セールスのグラフを見ると,イースターセールで発生した売上に比べると,DLC配信に伴うゲーム本体の売上増加はかなり小さい
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 しかしIrek氏は,収益面では失敗したものの,Giantsをリリースしたことで得られるものもあったと話す。
 まずは開発リソースの増加だ。開発スタッフにとっても便利なイベントエディタを作ったことで,以後のTheaの展開におけるコストダウンを見込めるようになった。
 次に,Giantsの開発でさまざまな知見を得られたことだ。DLCをリリースするタイミング,ローカライズはときにお金と手間が想像以上にかかること,マーケティングで工夫すべき点などは,冒険したからこそ得られた経験と言える。

 そしてなにより,TheaのユーザーコミュニティではGiantsがとても高い評価で迎えられたことが挙げられる。熱心なプレイヤーからは,「Giantsにお金を払わせてくれ!」という“お布施”のリクエストも実際にあったそうだ。
 Irek氏は,「ここまでの好反応が常にあるわけではないだろうけれど」と釘を刺しつつも,コミュニティとの関係が向上したことは大きなメリットとなったと述べた。
 ちなみに,Giantsのリリース当初,フランス語翻訳の出来がかなり悪く,Irek氏曰く「事実上プレイ不可能」なレベルだったそう。しかし,フランスのファンコミュニティ有志がフランス語版の翻訳を作り直し,MuHa Gamesに提供したことで改善されたとのこと。

 さて,Giantsの失敗から学んだMuha Gamesは,次のDLCを有料で提供ーーするのではなく,なんと再び無料で提供することに決めた。Irek氏は,「まあ,ちょっとクレイジーですよね」と苦笑しながらも,Giantsで得た教訓とコミュニティのサポートを踏まえ,今度は成功する自信があったと話す。

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 2つめの無料DLC「Thea: The Awakening - MultiPrayer」(以下,MultiPrayer)は,協力プレイ(Co-opモード)を追加するDLCだ。
 MultiPrayerでは,テキストの量を減らし,ボイスオーバーについてもメインクエストのみに絞るというように,まずローカライズのコスト削減を第一の目標とした。リリースタイミングも慎重に考慮され,時期的に最も近かったSteamのサマーセールに合わせてMultiPrayerをリリースすることに決めた。
 DLCのウリをCo-opに絞ったというのもポイントだ。マルチプレイで遊びたいというのは,今日び当たり前の欲求と言えるが,「いろいろな追加コンテンツがあります,無料です」ではなく,「Co-opで遊べます」という具体的な点を強調したのである。
 そのうえで,Giantsのときにリクエストがあった,無料DLCやアップデートを支援してくれるファンに対する取り組みとして,「Coffee for Coding」という有料DLCを用意。Theaの高解像度アートワークなどをダウンロードできるのだが,基本的には“お布施”の役割を担うものである。

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 かくして,MultiPrayerは2016年6月にリリース。売上的にも大きな成功を収め,イースターセールのときよりも盛り上がりを作った。Steamのサマーセールもあったため,MultiPrayerの施策だけの効果とは言い切れないが,Irek氏は「相乗効果による成功と認識している」と述べた。

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 ちなみに,ユーザーからの支援をクラウドファンディングなどで受け付けるのではなく,「Coffee for Coding」という形でSteamで有料販売したことについて,Irek氏は自身の見解を語った。
 仮にForumでKickstarterでの出資者募集の告知をしても,Kickstarterの利用登録をして,クレジットカード情報を登録して,バッカーになるボタンを押すまでの手間をかけてくれるユーザーは極めて少ない。ユーザーのほとんどは複数のサービスを使おうとはせず,SteamのユーザーはSteamだけを使うのが一般的なので,Steam上に用意し,かつワンクリックで買えることが非常に重要なのだという。
 なお,DLCを作るにあたってクラウドファンディングを利用しなかった理由には,TheaはKickstarterで2回失敗した経験にも起因しているそうだ。これもまた「失敗から学んだ知見」と言えるのかもしれない。

 余談だがIrek氏によると,無料DLCが「無料」という価値を発揮するのは,ほぼほぼそのDLCをリリースした直後までだそう。無料DLCの導入以前からプレイしていた人にとっては「無料でコンテンツが増えた! すごい! ありがとう!」という話になるのだが,無料DLCのリリース以後にゲーム本体を購入したプレイヤーにとっては「買ったゲームの一部」でしかないからだ。

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 Irek氏は,たとえインディーズデベロッパであっても,DLCの無料提供を試みる価値はあると語る。
 DLCの開発はゲームそのものより小さいコストで行えるため,さまざまな“実験”を行うことが容易だ。失敗する可能性を秘めた大胆な実験を有料DLCで行うと,失敗したときに炎上してしまうが,無料であれば取り組みやすい。先述したフランス語の翻訳失敗などがいい例と言えるだろう。
 また,コミュニティとの良好な関係を構築できるのが何よりも大きい。熱心なファンコミュニティを形成できれば,たとえ無料でDLCを提供したとしても,十分に「ペイ」できるとIrek氏は講演をまとめた。

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