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Access Accepted第754回:油田からゲームへ。次世代ゲームハブへと転身を図るサウジアラビア
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印刷2023/04/17 11:00

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Access Accepted第754回:油田からゲームへ。次世代ゲームハブへと転身を図るサウジアラビア

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 任天堂の最大の外部株主に浮上したSavvy Games Groupは,サウジアラビアの石油に依存した経済から脱却し,産業の育成を図る“サウジ・ビジョン 2030”の一翼を担う企業だ。この4月にもモバイル分野で急成長したScopelyの巨額買収を発表し,話題を振りまいているが,今回はそうしたサウジアラビアの国家プロジェクトに焦点を当ててみよう。


オイルマネーによるゲーム産業の投資や買収が活発化


 サウジアラビアの公共投資基金(PIF)によって支援されるSavvy Games Groupは,ビデオゲーム産業への投資を行う企業だ。近年はムハンマド・ビン・サルマン皇太子の肝いりで,PIFの議長を務めるヤセル・ルマイヤン氏がさかんにビデオゲーム産業の買収や投資を進めており,Savvy Games Groupは資金力を活かしてフランチャイズの拡大や新たな顧客のの獲得を目指している。
 今年2月には,任天堂の株式保有割合をそれまでの5.01%から8.26%に引き上げたことが明らかになった。これにより,任天堂の最大の外部株主に浮上している。そのほかにもカプコンやコーエーテクモホールディングスなどの日本企業をはじめ,Activision BlizzardやElectronic Arts,Take-Two Interactive,NCSOFTやNEXON,Embracer Groupといった大手パブリッシャへの大口投資を行ってきた。これは,2030年までにサウジアラビアをゲーム産業の一大ハブへと転身させる計画に基づいた,同政府の掲げる石油依存からの脱却と産業の多角化を推進する“サウジ・ビジョン2030”政策の一環である。

フェサール王子。His Royal Highness (HRH) Prince Faisal bin Bandar bin Sultan Al Saud(2022年11月の掲載記事より。カメラマン: 佐々木秀二)
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 この計画は,昨年12月に掲載したフェサール王子のインタビュー記事(※リンク)で紹介しているとおり,2030年までにサウジアラビアを拠点にするeスポーツ関連会社を200社以上作ること,3万9000人の雇用を創出すること,1%のGDPをゲーム産業から生み出すこと,少なくとも1つのAAAタイトルをサウジアラビアから作ることなどを目標としている。
 Bloomberg誌の最近の記事(※リンク)によると,その資金として380億米ドル(約5兆円)もの“オイルマネー”を投じる計画であるという。

 Savvy Games Groupは同国のゲーム産業育成のため,eスポーツへの投資も進めている。2022年11月,日本オンラインゲーム協会(JOGA)とサウジアラビアeスポーツ連盟(SEF)が提携に関する基本合意書を調印したことはすでにお伝えしたとおり(※リンク)。ゲーム産業が育っていく上では消費者の理解が必要だが,まだ市場が成熟していないサウジアラビアにおいて,eスポーツがその大きな原動力になり得ると期待されているのは言うまでもないだろう。

 この布石として,Savvy Games Groupはドイツを拠点にする世界最大級のeスポーツ運営会社ESL,およびeスポーツプラットフォームであるFACEITを2022年初頭に買収している。今のところ,ESLが運営するDreamHackがサウジアラビアで開催されるという情報はないが,SEF主導によるeスポーツイベントが開催されており,中東やアフリカの新興市場をまとめる存在になりつつある。
 前述のインタビューではフェサール王子が「サウジアラビアの人々を,一つにまとめるようなものになってほしい」と語っていたが,ARAB NEWS(※リンク)によると,ゲーム文化の拡散は「人々が自分のゲームの能力で自己紹介し,歴史や宗教,肌の色,出自や性別にとらわれない世界」をもたらすという抱負を明かしている。保守的と思われがちなサウジアラビアにおいて,ゲーム産業の育成は先進的に推進されていることが分かるはずだ。

サウジアラビアでは,すでに複数のeスポーツイベントが開催されており,同地域での重要拠点になりつつある
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AAAタイトルを生み出すための産業育成


 Savvy Games Groupは4月5日,米カリフォルニア州を拠点にするゲーム会社Scopelyを買収する契約を締結した。Scopelyは4Xゲーム「Star Trek: Fleet Command」「Marvel Strike Force」などのデベロッパだ。それほど知名度のあるスタジオではないが,49億米ドル(約6500億円)という買収額に驚かされる。こればソニー・インタラクティブエンタテインメントが昨年,Bungieを買収した額(約37億米ドル)を大きく上回る。

2011年に設立されたScopelyは,さまざまエンジェルファンドから投資を受けて急成長を果たした。カリフォルニア州カルバーシティに本拠を構え,東京をはじめ世界16か所に開発や運営の拠点を持つ
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 Savvy Games Groupのプレスリリース(※リンク)によると,Scopelyの買収理由は「モバイルゲームを中心に多彩なジャンルの開発やパブリッシングを手がけてきた実績」を評価したものだという。ゲーム開発とパブリッシングに関してはScopelyの独立性を維持しながら,経営面ではSavvy Games Groupの長期的な支援を受けることで,さらにグローバルな市場にアプローチを目指すとしているが,モバイルゲーム以外のプラットフォーム参入も視野に入れている点は興味深い。

 現在,基本プレイ無料のモバイルゲームは大きな市場を獲得している一方,ライブサービスを成功させることは難しくなりつつある。事実,NianticやElectronic Artsは開発規模を縮小し始めている。統計サイトStatistaのデータ(※リンク)によると,人口3600万人ほどのサウジアラビアのゲーム市場は約2300億円(17億3000万米ドル)に過ぎないが,今後は年率20%近い成長が見込まれ,eスポーツの浸透によってモバイルゲームからPCや家庭用ゲーム機に移行する可能性は十分に予想はされる。ゲーム開発に興味を持つ若者も増えていくかもしれない。

2020年11月のWiredアラビア語版では,ファサール王子と共にプロゲーマーがカバーを飾り,サウジアラビアのeスポーツ分野での活動を「Saudi Arabia 2.0」と評している。女性プロリーグが存在しているのも何気に凄いところだ
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 サウジアラビアが掲げるゲーム産業の育成目標のうち,最も困難が予想されるのはAAAタイトルの開発だろう。現在,ゲーム開発の世界的なハブとして認知されているカナダやスウェーデン,ポーランドといった地域では,Ubisoft Montreal,EA DICE,そしてCD Projektなどの台頭によって産業の成功例が生まれ,政府が教育や税制優遇といったサポートを行うことで成長に至った。BattlefieldシリーズもThe Witcherシリーズも最初からAAAだったわけではないことを考えると,2030年までの7年間でサウジアラビアからいきなりAAAタイトルが生まれるというのは現実的ではないと思える。

 そこで考えられるのが,Riot Gamesの「League of Legends」,Wargaming.netの「World of Tanks」,Mediatonicの「Fall Guys」のようなeスポーツ化にも成功したシンデレラストーリーを参考に,政府の強力なバックアップによってサウジアラビア国内でも同様の成功を実現させることだ。
 サウジアラビアの国家プロジェクトは今後もゲーム会社の大型買収を行い,グループ内のインフラ整備によって国内産業へのフィードバックを推し進めていく。もしくは,国外からの人材を受け入れ,大型プロモーションと共にAAAタイトルを半ば強引に作り出していくことになるのだろう。この投資戦略がどのような実を結ぶのか,行く末を見守りたい。

「サウジアラビア産のゲーム」はまだ少ないが,2016年にサバイバルRPG「Badiya: Desert Survival」,2020年に同作のバトルロイヤルゲーム「Badiya: Battle Royale」をリリースしたSemaphoreというメーカーなどが存在する
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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