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「世界一のマウス工房」見学レポート。Logicool Gの「ワイヤードより高速なワイヤレスマウス」はいかにして生まれたのか
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印刷2016/03/26 00:00

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「世界一のマウス工房」見学レポート。Logicool Gの「ワイヤードより高速なワイヤレスマウス」はいかにして生まれたのか

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 日本時間2016年3月24日,Logicool G(日本以外ではLogitech G)の新しいワイヤレス&ワイヤード両対応マウス「G900 Chaos Spectrum Professional Grade Wired/Wireless Gaming Mouse」(国内製品名:プロフェッショナルグレード ワイヤード/ワイヤレス ゲーミング マウス,以下 G900)が発表になった。
 G900は,ゲーマーがワイヤレスマウスを避ける理由だった「遅延」と「重さ」,そして「バッテリー駆動時間を優先するとセンサー出力が低下し,センサー出力を優先するとバッテリー駆動時間が短くなる」という3つの問題に正面から取り組んだとされるマウスだ。ロジクール(日本以外ではLogitech)によると,ワイヤレス接続時でも,そのレスポンスはワイヤードマウスに匹敵,もしくはワイヤードマウスをしのぐとのことである。

Daniel Borel Innovation Center
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 ざっくり言ってしまえば,「ゲーマー向けワイヤレスマウス」の常識を覆しかねない製品なのだが,そんなG900をLogitech/ロジクールはどのように開発したのだろうか。4Gamerでは,G900の発表に先立って,3月上旬,Logitechの本拠地であるスイスに飛び,マウスやキーボード(など)の研究開発拠点「Daniel Borel Innovation Center」でLogitech/ロジクールが何をしているのかを見てきたので,世界最大のマウスメーカーが抱える「マウス工房」をレポートしたい。

全世界から集まった十数人の報道関係者を,CEOのBracken P. Darrell(ブラッケン・ダレル)氏が迎えてくれた
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Daniel Borel氏(Logitech創立30周年記念で来日した2011年当時のもの)
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 なお,Daniel Borel Innovation CenterのことをLogitech本社の人達は「BIC」(びーあいしー)と呼んでいたので,本稿もそれに倣うが,BICは,Logitechの共同操業者であるDaniel Borel(ダニエル・ボレル)氏の名を冠した施設だ。
 場所は,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(École Polytechnique Fédérale de Lausanne,以下 EPFL)内。企業の研究所が集まる「EPFL Innovation Park」のうち,一棟がまるまるBICとなっていた。

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大学構内にあった地図。「You are here」マークの左下にある正方形がBICの場所だ。EPFL内を歩いて回ろうかと思ったが,広すぎて挫折
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これはBIC内のエレベータだが,スイスで乗ったエレベータは全部,いわゆるロビー階が「0階」だった。ちょっと面白い


従来&競合製品とのガチ比較でG900のワイヤレス性能を確認


BICのロビー
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 BIC内の見学は,初日が各種施設の案内,2日めが具体的なテストだったのだが,本稿では時系列は無視し,テストから順に紹介したい。
 また,4Gamerでは普段,「Logitech/ロジクール」と社名を並記するが,BICは明らかにLogitech本社の一部門であることから,以下,社名は必要がない限りLogitechとのみ表記するので,この点はご注意を。ついでに念のため付け加えておくと,日本の「ロジテック」はエレコムの子会社で,Logitechとは無関係である。

 というわけでまずはワイヤレスマウスにとって最大のキモでもあるワイヤレス性能だ。
 後段でも触れるが,ワイヤレスマウスに常時つきまとうのが環境ノイズ問題である。というのも,ワイヤレスマウスが用いるのはほとんどのケースにおいて2.4GHz帯だが,この帯域はWi-FiやBluetooth,ワイヤレスキーボードといったほかのデバイスでたいへん混み合っており,これらから発せられる電波がワイヤレスマウスの通信を妨害してリトライが発生してしまうと,非常に大きな遅延(lag,ラグ)の生じる結果となる。
 そこでLogitechでは,「G700s Rechargeable Gaming Mouse」(以下,G700s)の開発で得られた知見とゲーマーからのフィードバックを基に,ワイヤレス性能の改善に取り組んだという。BICの見学においては,G900のノイズ耐性を,他社の具体的な製品と比較するデモを見ることができた。

RF Laboratories
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 デモの会場となったのは,電波暗室のある実験設備「RF Laboratories」である。
 電波暗室は外部と電磁シールドで遮断されており,外部からの電波は入ってこない。また,内部の反射も抑えるよう特殊な材質で施工されており,電波を扱う機器の開発には必須の設備だ。
 ちなみに総工費は60万スイスフラン(≒60万ドル,3月24日現在のドル円レートで7000万円弱)とのことだった。

RF Laboratoriesにある電波暗室。部屋がシールドされており,外部からの電波が入り込まない。また,壁や床に貼られた吸収材によって内部の乱反射を抑える構造にもなっている
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 さて,ここでのテストは,電波暗室内をノイズで満たしつつ,マウスから1.3m離れた位置に受信機を置いて,マウスからのセンサーデータが正しく受信できるか調べようというものである。

テスト用の架台と,その1.3m先においてあるレシーバー。上に示した電波暗室の写真で中央の机に載っているのが架台,右端の台に載っているのがレシーバーだったりする
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 部屋の中を満たす“雑音”は,雑多なノイズの混合物だ。IEEE 802.11g/nのチャネル1,3,5,7,9,11,13をスイープさせた信号と,Class2に対応したBluetoothデバイスが出す周波数ホッピング(※短い時間で信号の周波数を変えながら送信すること),そして自社および競合他社の従来型ワイヤレスマウスが発する2.4GHz〜2.483GHzの信号でガウスフィルタを使った周波数変調式の電波である。

部屋を満たす電波の種類はこれ。2.4GHz帯のほぼすべてをカバーできているという理解でいいだろう
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テスト環境のおおまかな概念図。左側のシステムとアンテナで,混合ノイズを発生させる。図の上にある上がマウスのレシーバー,中心にテスト対象のマウスと架台がある。左側はノイズ測定用のアンテナだ
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電波暗室内に設置されたノイズ測定用アンテナ
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 その量や強度は,自在に変更可能。PCユーザーの部屋にありがちなノイズ環境や,集合住宅などでノイズが増えた環境,LANパーティーのような多数の人がいる環境,そして現実世界ではありえないレベルの高ノイズ環境を,電波暗室内に設定できる。


 テストは,マウスを架台に取り付け,その下にあるマウスパッドを円運動させて,それをマウスのセンサーで拾うというものだ。円運動の速度は任意に変更できるが,ここで行うのはセンサー性能テストではないため,基本的には60回転/分程度に設定しているとのことだった。


 とくに通信障害がなければ,下の画面のような円運動がトレースされるはずである。

このような円運動がトレースできていれば問題ない。ちなみに円がズレているのは架台側円運動の精度によるものだ
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 というわけでまずはG900からだが,端的に述べて,テスト結果は見事だ。
 現地ではワイヤレス接続したマウスの挙動について,

  1. ノイズのない状態
  2. 一般的な家庭環境におけるノイズを想定した状態
  3. 現実世界では起こり得ないほど最悪のノイズ状態

の3パターンでテスト結果を見ることができたのだが,下に示した写真のうち,左はまさに3.のワーストケースにおける円運動のデータで,そこに破綻はない。
 右の張り紙は,ワイヤードと,ワイヤレスでノイズのない状態,ワイヤレスでワーストケースのノイズが載った状態における結果をLogitechが前もって調べたものとのことだが,それと現地で見たテスト結果との間に違いはないのも分かる。

G900のテスト結果(左)。ワーストケースにおいても,何の問題もない。ちなみに右は,Logitechが事前検証に基づいてまとめてくれたシートだ。ワーストケースで問題がないのだから当たり前だが,違いはない
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こちらは参考として,スペクトラムアナライザでノイズを表示した様子。縦軸が強度,横軸が周波数(分布)で,左が一般的な家庭環境,右がほとんど起こりえないワーストケースにおけるノイズである
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G700sを架台にセットした状態
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 Logitech G/Logicool Gの従来製品であるG700sはどうか。G700sは事前検証結果の掲示がなかったので,追加でテストしてもらったのだが,ノイズのない状態,一般的なノイズレベルでは問題ない一方,ワーストケースでは「ひどい」としか言いようのない結果になっている。もはや利用不能だ。
 逆に言うと,G700sでは一般的な動作環境だと問題ないものの,それを超える悪条件では操作上の大きなトラブルが発生する恐れがあり,だからこそLogitechはG900で改善を図ったわけである。

G700sのテスト結果。左から順に,ノイズなし,一般的なノイズレベル,ワーストケースで,ワーストケースは惨状を呈している
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Mamba 2016を架台にセットしている様子
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 では競合製品だとどういう結果になるのか。まずは2015年に発売となった新型「Razer Mamba」――「Mamba 2016」という略称で書かれることが多いが,Logitechは「Mamba 2015」と呼んでいた――でまったく同じテストを行うと,異なる結果が出た。ワイヤレスでノイズのないときは問題ないのだが,一般的なゲーマーの自宅環境で生じうるレベルのノイズを与えると,トレースが一時的に止まって,次の点にジャンプする現象が生じる。さらにワーストケースでは,フリーズも伴い,円の位置が大きくズレてしまうという状態になった。

一般的なゲーマーの自宅環境で生じうるレベルのノイズを与えると,一部でトレースが止まって,次の点にジャンプする現象が生じ,結果,円の中に何本か直線が走ることになった(左)。ワーストケースではかなり無惨だ(中央)。右はLogitechによる事前検証結果で,これとおおむね一致している
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Ouroboros,そしてSensei Wirelessも同様にテスト
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 競合製品でも,2014年以前のモデルとなる「Razer Ouroboros」(以下,Ouroboros),そしてSteelSeriesの「Sensei Wireless Laser Mouse」(以下,Sensei Wireless)はどうだろう?
 その結果は下にまとめたが,ワイヤレス接続時のOuroborosは,ノイズレスの状態でもジャンプが生じ,また,ドリフト(drift,ここでは一定のリズムで円を描かず,漂流したような状態になる意)を起こしてしまった。また,ワーストケースはG700s以上に無惨だ。

 Sensei Wirelessも同様の傾向を示している。一般的なノイズレベルですでにドリフトがひどく,ワーストケースでは利用できる状態にない。

上段はOuroboros,下段はSensei Wirelessで,いずれも左から一般的なノイズ環境時におけるデモの結果とワーストケースにおけるデモの結果,Logitechが示した事前検証結果だ。一昔前の製品は,一般的なノイズレベルの時点で,動作になんらかの問題が生じると分かる
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 当然,こんな結果だと何かしら恣意的な操作が行われているのではないかと思う人もいるだろうが,報道陣はテスト中,事前準備やパラメータ設定などもすべて見せてもらえる状態にあった。少なくともBIC内でテストする限り,今回見ることのできたデータには再現性があるという理解でいい。

 ちなみにテストを見せてもらいながら聞いたところによれば,ワイヤレスマウスの操作性に多大な影響をもたらすのはBluetoothとのこと。とくに,ゲーム環境の傍らに置いてあることの多いスマートフォンでBluetoothが有効になっていると,既存のワイヤレスマウスにはかなりよろしくない結果をもたらすそうで,G900ではその部分の改善に注力したという。


「本当にワイヤードマウスより速い」G900


Optical Laboratory
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 続いては,光学センサーやマウスボタンの開発を行う「Optical Laboratory」で実施された,ボタン押下の入力信号遅延比較デモを見ていきたい。

 テスト環境は下に示した図のとおりで,「2台のマウスで行ったクリックに対する遅延」を直接的に比較できるようになっている。左右2台のマウスはワイヤレスもしくはワイヤードでの接続経路とは別に,もう1つのケーブルで,マウスのクリックに対する信号を検出するインタフェース「Signal Adapter」につながっているのがポイントだ。

テスト環境の概略図
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 ワイヤレス/ワイヤードによるUSB経由の信号と,マウスから直接入ってくる入力信号,その両方をSignal Adapterはトリガー信号を遅延計測器(Latency Measurer)に送る。そこで遅延を測定するという仕組みである。

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Signal Adapter。簡単なロジックICでできている。シルク印刷入りなのでLogitechお手製のようだ。テスト対象のマウス2台が,USBプロトコルアナライザ経由でPCと,そしてマウス本体に(Logitechによって内蔵された)ケーブルでSignal Adapterとつながっている
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そのSignal Adapterの先につながっているのが,Latency Measurer。Tag heuer(タグホイヤー)製の精密タイマー「HL440 Minitimer」である。このタイマーによって,Signal Adapterに押下信号が送られたタイミングと,PCに送られたタイミングを比較するわけだ
テスト環境全景(左)と,USBプロトコルアナライザ(右)
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Signal Adapterとマウスをつなぐケーブルは,こんな感じで(改造したうえで)差し込んである
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 このテストでは,FPSゲーマーならやったことがあるであろう,マウス操作で行うモグラ叩き的なゲームを用いる。
 被験者が2台のマウスでそれぞれモグラ叩きゲームを行うと,マウスのクリックに対して入力がどれくらい遅延しているかを,精密タイマーで計測できるというわけだ。


 ここでは,G900をワイヤードマウスと比較しましょうということで,「Razer DeathAdder Chroma」(以下,DeathAdder Chroma)およびSteelSeriesの「Rival 300」(旧称:Rival Optical Mouseと比較することになった。
 前者のテストでは別の報道関係者,後者のテストでは筆者(佐々山)が実際にG900とRival 300でモグラ叩きを行ったのだが,G900ではワイヤレス接続時に3〜6msの遅延でPCへ入力できるのに対し,DeathAdder Chromaは10〜13ms,Rival 300は6〜9msの遅延と,明確な違いがあった。「ワイヤードマウスより速い」というLogitechの言い分は,少なくともボタンの入力遅延,かつ対DeathAdder Chroma&Rival 300であれば正しいというわけである。

左はG900とDeathAdder Chroma,右はG900とRival 300のボタン入力遅延比較。いずれも縦軸は回数カウント,横軸はms(ミリ秒)単位の遅延となる。どちらのテストでも水色がG900だ
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移動データの転送速度もワイヤードマウスより高い!?


Tracking Laboratory
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 既報のとおり,G900は光学センサーとしてPixArt Imagingの「PWM3366」(PMW3366DM-VWQU)を採用している。「G502 Proteus Core Tunable Gaming Mouse」や「G303 Daedalus Apex Performance Edition Gaming Mouse」(以下,G303)と同じセンサーなので,その実力は市場で実証済みと言っていいだろう。

検証用のターンテーブル。G900と比較対象のマウス(ここでは新型Razer Mamba)が載っている
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 G900には,性能が高い光学センサーを活かすためのワイヤレス技術――本稿の序盤で示した「ノイズ耐性」ではなく,純然たる送信受信技術のほうだ――が求められるわけだが,マウスやタッチパッドのトラッキングに関する研究開発を行っている「Tracking Laboratory」では,まさにそのワイヤレス技術に関するデモを見ることができた。

 デモは,G900と,比較対象のマウスを,ターンテーブルの上に固定する。そのうえでターンテーブルを回転させ,光学センサーで読み取ったデータがどのくらいの頻度や時間でPCに送られているかを調べるものである。

テストの概要。ターンテーブルの上に固定されたマウスから送られてくるトラッキングデータをPCで集計し,データが送られてくる時間あたりの頻度や遅延時間を調べるというものである
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デモのタイミングで撮影したグラフ
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 分かりやすい例から見ていこう。下に示したグラフは,ターンテーブル回転開始からの最初の33カウントが送られてくる時間を示したものとなる。ワイヤレス接続となるG900の比較対象は,新型Razer Mambaのワイヤレス接続時だ。

 G900は33カウントの大半が4msに集中している。これはOptical Laboratoryにおけるテスト結果とほぼ同じだ。一方,新型Razer Mambaではかなりバラついていることが分かるだろう。新型Razer Mambaでは,0.5msという,かなり良好な結果も見えるが,Logitechは「(このスコアは理論的にあり得ないため)何らかの異常か,センサーが最初に移動を検出したデータが誤って送られているかのいずれかであろう」としていた。
 新型Razer Mambaでスコアが集中しているのは(G900より遅い)6.5〜8.5msの範囲だが,10ms以上,最大18.5msというスコアも記録している。この不安定な状況を生んでいるのはワイヤレスの通信障害であって,これが「ワイヤレス性能」の違いを生んでいるということのようだ。

最初の33カウントにおけるトレースデータが何ms後に送られたかを示すグラフ(※テスト機で撮ったスクリーンショット。以下同)。つまり「マウスのセンサーが移動を検出してPCに送ってくる最初の33カウントの何%が何ミリ秒後に来たかを示すグラフである。縦軸が当該時間における頻度ををパーセンテージで示したもので,横軸が時間(ms)だ
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 続いては,ターンテーブルを30秒間回転させた結果の集計データを見てみよう。下に示したのはG900のワイヤレス接続時で,回転開始後,40レポート+α/msで安定し,回転が停止するとレポートが終わるという様子がグラフから見て取れる。

ターンテーブルを30秒間回転させ,その間のマウスからのレポートを集計したグラフ。G900のワイヤレス接続時におけるデータだ
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 一方,次に示すのは,新型Razer Mambaをワイヤレス接続させたときのものだ。ターンテーブルの稼働中,おおよそ50レポート/ms程度でまとまっているものの,ときおり時間あたりのカウント数が大きく跳ね上がるなど,安定していないことが分かる。Logitechによると,このピークは通信障害による一時的なデータの停止と再開が生じた結果として,こうしたピークが生じている可能性が高いとのことだった。
 また,回転開始から終了を示す直線に対して,データがやや遅れて送信されてきていることもグラフから読み取れる。安定性という点ではG900に軍配が上がるというわけである。

これは新型Razer Mambaにおけるワイヤレス接続時のデータ。G900と比較すると安定性を欠いており,また遅れている。なお,鋭いピークは通信障害によるものではないか,とのことだった
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 だが,話はこれで終わりではない。
 Logitechは,G900のワイヤレス動作時と,ワイヤードマウスであるDeathAdder Chromaとの比較も行ってみせたのだ。
 同条件でテストした結果を下に示すが,3〜5msのG900に対してDeathAdder Chromaでは5.5〜7.5ms。なんとトレースデータの送信が始まるまでの時間は,G900のほうがワイヤードマウスよりも短い。これは衝撃的な結果である。

青がG900,緑がDeathAdder Chroma。中央値で比較するとDeathAdder Chromaのほうが遅延は2.5ms以上大きい
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DeathAdder Chromaの実測データ。新型Razer Mambaと比べると十分に速いのだが,G900と比べると荒れ気味で,かつ,データの送信開始(と送信終了)がやや遅れている
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 G900はワイヤレス接続にもかかわらず,ワイヤードマウス以上に安定しており,しかも低遅延だというのが,実測データから分かるというわけだ。


シミュレーションを徹底活用して開発された,G900のワイヤレス技術


 以上,他社とのガチ比較という,日本にいたらまずお目にかかれない貴重なデモを見てきたわけだが,ここまでの話から,G900におけるキーとなる技術の1つはワイヤレス関連だと察することができるのではなかろうか。
 競合製品と比べてノイズ耐性が高く,また安定してレポートを送信でき,その実力はワイヤードモデルよりも上だというG900の特徴をいかにして実現したのか,その一端をLogitechはRF Laboratoryで語っている。

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 それによると,方向や環境依存の少ない電波強度を考慮した綿密な設計を行ったのが“効いている”という。そのためにシミュレーションを積極的に活用したようだ。

 下の写真は一般的なマウスにおける周囲の電界強度を示したものである。左が実測値,右はHFSS(※有限要素法を使った電界強度シミュレータ)の結果で,実測値とHFSSによるシミュレーションの結果がだいたい一致すると分かる。

一般的なマウスの周囲の電界強度の実測値(左)とHFSSシミュレーション(右)。だいたい一致する
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 角度によって電界強度が変わることを一般には「角度特性」と呼ぶのだが,これはアンテナの特性や筐体の設計,さらには握っているユーザーの手など,周囲の環境が影響することになる。
 強度ががくっと落ち込んでいる角度では,ほとんど電波が出ていないも同然なので,レシーバーに対してマウスがこの角度を向いた状況では,レシーバーが電波を受信できず,リトライが発生することになる。

G900では時間領域(Time Domain)のシミュレーションも併用しつつ設計の最適化を行ったという
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 そこでLogitechは,G900の開発にあたり,Keysight Technologyの「EMPro」という3次元電磁界解析シミュレータを用いて,周囲の電界強度が安定するように設計の最適化を行った。
 EMProでは,有限要素法による周波数領域のシミュレーションだけでなく,時間領域差分法を使った時間領域のシミュレーションができるという。つまり,より綿密なシミュレーションが可能くらいに考えておけばいいだろう。

 シミュレーション結果を受けて具体的に何を行ったかだが,基本的にはアンテナの配置や,電波に影響を与える金属部品の配置や形状を最適化したそうだ。

 その結果,G900は下の図のように全域にわたってほぼ均一な電界強度が得られる設計になっているという。ただし,下の図はあくまでシミュレーションであって,実測結果ではない。

シミュレーションを活用して設計を最適化。全域にわたってほぼ均一な電界強度が得られるよう最適化を行っている
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 もちろん,シミュレーションだけでなく,Logitechは実測も行っている。測定には前出の電波暗室を使っており,おおよそシミュレーションと同一の結果が得られているそうだ。下にその様子を写真で示しておこう。

電波暗室内の発泡スチロールのような素材で作られた架台の上にマウスを設置。この架台はぐるぐると回転する仕掛けだ。右下は電界強度を測定するアンテナ
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こちらが測定結果だ。LogitechはG900のほか,「Wireless Gaming Mouse G700」と「G602 Wireless Gaming Mouse」,あと(ここでは具体名が出ていないが)競合製品の測定結果が並んでいる。実測でもG900は全方位にかなり均一に近い電界強度が得られているのが分かるだろう
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 このような実測とシミュレーションによって安定した電界強度が得られるG900は,従来のワイヤレスマウスとは異なり,角度によって電波を失うということが発生しづらい。そのため他社には見られるリトライが発生しづらく,前段前段までに示したとおり,ワイヤレスにもかかわらず安定した操作が可能になっているわけである。

 また,以上のような電波系の改善に加え,通信用プロトコル改良も,G900のワイヤレス伝送における安定性の向上に大きく寄与しているようだ。
 下のマシンはRF Laboratoryに設置されていたもので,マウスを最大500IPS(≒1.27m/s)で左右に振ることができる。

アームの先にマウスを取り付けたうえで,最大500IPSでマウスを動かせる装置
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上の装置で得られたトラッキングデータ
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G900のテストで用いたという装置。こちらでのデモはなかった
 この装置はもともと,加速度センサーとジャイロセンサーを併用したセンシング技術「Fusion Engine」を搭載したマウス「G402 Hyperion Fury Ultra-Fast FPS Gaming Mouse」(以下,G402)の検証用に作られたそうだ。

 当然,G900は最大のトラッキング速度が300IPSなので,これより小さな装置を使ってテストしたそうだが,こうした最大速度域におけるトラッキングの検証とプロトコルレベルでの追い込みをきちっと行うことで,Fusion Engineなしでも,高速トラッキング時に安定した通信ができるようになっているとのことだ。
 ちなみに,RF Laboratoryにおいて,これらワイヤレス技術は,センサー技術から独立して開発を進めているとのことだった。どのようなセンサーであっても対応できる無線技術を地道に開発しているという感じだろうか。


驚異的な軽量化を実現した内部構造の秘密


Mechanical Laboratory
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 G900における大きな特徴として,忘れてはならないのが,LED消灯時に連続32時間,点灯時にも連続24時間の連続利用が可能でありながら,内蔵バッテリー込みで約107gという,ワイヤレスマウスとしては極めて軽い公称重量である。
 こうした「軽いボディ」を実現したのが,Logitechでマウスなどの製品のメカニカルを設計を担当する「Mechanical Laboratory」(別名,Mechanical Shop)である。

 冒頭でも紹介したとおり,Logitechでは,G900を製品化するにあたって軽量であることを大いに重視した。軽量なマウスはゲーマーの疲れを軽減し,素早く精密なマウス操作を行うために欠かせないからだ。
 では,そのために何をしたのかというと,意外に単純なことで,パーツの細部まで,徹底的に軽量化を行うという,地道な作業を行ったという。「このパーツで○g削り,こちらで△g……」という感じだったとのことである。

3Dの分解図と,各パーツの重量一覧。「0.1gを削っていく努力」の積み重ねだという
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 たとえば,G900で外装パーツの厚みは1.2mmにまで薄くなっている。ただ,言うまでもないことだが,それによってマウスが脆弱になってしまっては元も子もない。Logitechでは,シミュレーションや実際の落下テストを繰り返すことで,軽いながらも丈夫な本体を作り上げたと胸を張っていた。

左は外装パーツの厚みをG700sとG900とで比較したもの。明らかに薄い。右はその外装パーツだ
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 また,軽量化と合わせてMechanical Laboratoryが取り組んだのが,メインボタンの改良である。このあたりは先行して掲載した記事でも軽く触れてあるが,より安定したクリック感と反応の速さを求め,G900ではマウスボタンの構造そのものをに根本から見直している。

 従来のメインボタンは,どのような問題を抱えていたのだろうか。
 下のスライドは,従来のメインボタンの構造を示したものだ。一般的なマウスでは,斜めのボタンに対してマイクロスイッチが水平に取り付けられているのだが,この構造が,スイッチの遊びを大きくしているという結論に達したそうである。

ごく一般的なメインボタンの構造を示したスライド(左)。斜めのボタンに対して内部のマイクロスイッチは水平に付いている。その結果,押し始めの遊びが大きく,バネ圧の変化も不自然だという(右)
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 そこでG900では,メインボタンの傾きに合わせて,マイクロスイッチを斜めに取り付けた。これにより,メインボタンを押すときの無駄な力をおおよそ20%低減することができ,結果,より安定したクリック感や反応の速さを得ることができたとのことだ。

これが最終的な,G900におけるメインボタン設計。マイクロスイッチがボタン(側で,スイッチを押す突起)に対して平行になっている。スプリングや軸といった金属を併用して押下時の“返り”をよくしているのは,G303に通じるものがあるともいえるだろう
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斜めに実装するボタンスイッチと,対応するボタン側の実装がよく分かるモックアップ。右は従来型のスイッチ実装形態と比較したものだ。なお,スイッチはオムロン スイッチアンドデバイス製
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 この改善によって具体的にどの程度安定したかを示すのが下のスライドで,グラフ中,黄線が競合製品,白がG900となる。このグラフは,30個の個体を用意して,メインボタンを押下するのに必要な力のバラツキを示したものだが,これを見ると,競合では50%以上もの偏差が見られるのに対して,G900ではバネ圧60gfという目標値に10%の偏差で揃っていることが分かる。

G900は競合に対して安定したマウスボタンの押下圧を実現したというスライド
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 せっかくなので,Mechanical Laboratoryで公開されたコンポーネントの写真をここで示しておこう。

G900を構成するコンポーネント一式。非常に部品が多い
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G900の分解立体見本
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軽量化の結果,天板と底板に挟まれた“内筐体”を用意し,そこに主要なコンポーネントを取り付けるという設計になっているのが興味深い。ぱっと見だと重くなりそうだが,そこを軽くしたのが技術なのだろう
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“内筐体”に取り付けられた基板上に載るサイドボタン,そして標準ではDPI変更用ボタンのスイッチは,いずれもオムロン スイッチアンドデバイス製だった
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ボタン部のクローズアップ(左)と,ボタンの内側で実際にスイッチを押す部分(右)
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肉抜きだらけのスクロールホイールに,軽量化に向けた,涙ぐましい努力の跡が見える。右は,こちらも最適化の塊といえる内蔵バッテリーパック
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メイン基板
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本稿の中盤でも紹介したとおり,センサーはPMW3366DM-VWQU(左)。搭載するマイクロコントローラは,Cortex-M3ベースの32bitプロセッサであり,STMicroelectronicsの省電力モデル「STM32L100」だった(中央)。最近では定番のコントローラだ。右はレンズユニットで,PixArt Imagingのロゴが見える
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なぜLogitech G/Logicool Gは,センサーを光学式で一本化したのか


 Tracking Laboratoryにおける立ち話で,「なぜLogitech G/Logicool Gが最近のゲーマー向けマウスにおいてセンサーを光学式で一本化したのか」を聞くことができたので,その話も最後にまとめておこう。

 下の写真は,Tracking Laboratoryにあった,センサーの性能を調べる装置である。装置内で「センサーが取り付けられたヘッド」を動かして生データを取得し,センサーそのものの性能を調べることが可能だ。
 さまざまな種類のサーフェスの上でセンサーを動かし,そのデータを取り出すことで,センサーの性能を綿密に調べることができるそうである。

ケージの中のヘッド部分にセンサーを取り付けたうえで,サーフェス側を動かすことで,センサーからの生のデータを取得する
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これがヘッド部分。センサーユニットが付いている
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この基板でセンサーからの生の出力を取り出す

 こういう設備を持っていたにもかかわらず,なぜLogitechはゲーマーの評価が安定している光学センサーではなく,レーザーセンサーに走った時期があったのか。その点についてTracking Laboratoryの担当者は「(レーザーセンサーを採用していた)当時は,ゲーマーの意見をそこまでは積極的に取り入れてはいなかった」と,率直に語っている。いわく,レーザーセンサーは,「組み合わせるサーフェス」をあまり選ばないという特性があるため,さまざまな材質の机に対応しやすいというメリットがあった。それゆえに,「レーザーセンサーのほうが扱いやすい」という評価を行って,レーザーセンサーを優先したのだという。

 だが,2010年頃,Logitechとしてゲーマー向け市場へ本腰を入れることになったタイミングで,ゲーマーからのフィードバックを取り入れるようになると,「オフィス向けでベストだからといって,ゲーム用にもそうだとは限らない」という知見が得られた。
 Logitechに寄せられたフィードバックを分析すると,ゲーマーが最も重視していたのは,センサーが精密にトラッキングできることと,トラッキングの結果に一貫性があることだったそうだ。「この点では,レーザーセンサーよりも光学センサーのほうがはるかに優れている」(担当者)。つまり,Logitech G/Logicool Gとして,最近のモデルが一貫して光学センサーを採用しているのには,上で紹介した機器によるテストと,ゲーマーのフィードバックが大きく影響しているというわけである。

競合との比較にも使ったターンテーブルにG900を載せた
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 ちなみにTracking Laboratoryでは,G900のトラッキングテストデモも見ることができた。G900の公称トラッキング速度は300IPS(≒7.62m/s)だが,テストではカタログ性能通りのトラッキング性能が得られることを確認できている。

 下に写真で示しておこう。

テスト結果のグラフ。上段は縦軸が「1msあたり,マウスから何カウントのレポートが送られてきたか」を示すレポートレート(counts/ms),横軸がターンテーブルの速度(IPS)だ。ターンテーブルの速度が306.5IPSに達するまで,ほぼ直線的にトラッキングできている。下段は縦軸がDPI(=CPI)設定で,横軸がターンテーブルの速度(IPS)。3270DPI設定時,超低速ではブレるものの,50〜300IPSでは安定して設定値前後をキープしている
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「世界一のマウスメーカーの本気」を強く感じるG900


今回見学した各ラボラトリの中央にあるフリーゲームスペース。スタッフは時間があれば,ここでいつでもゲームをプレイできるそうだ(※写真に写っているのは主に各国の報道陣だが)
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 以上,スイスのローザンヌで丸2日,目を皿のようにして見学してきた内容を,できる限り簡潔にまとめ(る努力をし)てみた。
 取材を通じて最も衝撃的だったのは,押しも押されもせぬ,誰の目にも明らかな世界一のマウスメーカーで実際に開発にあたっているエリート中のエリートが,テスト方法から目的まで明らかにしたうえで,目の前で比較テストを行い,G900の優位性を示すという,ある意味,大変大人げないアピールをしたところだ。
 ヘッドセット開発部門の取材を通じ,Logitech/ロジクールという世界的大企業が,全然大企業っぽくないというのは理解していたつもりだったが,まさか保守本流のマウス開発部門においてもそうだとは,さすがに思わなかった。

 世界シェアナンバーワンというその地位に胡座をかく気がまったくなく,2番手以降のゲーマー向けマウスメーカーに対して本気で戦いを挑んでいるその姿勢を,頼もしくも恐ろしく感じた次第である。

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 そんなLogitech G/Logicool Gが,わざわざ世界中から報道関係者を集めてまで披露したG900というマウス,それ自体の完成度もやはり恐ろしい。BRZRK氏はファーストインプレション記事で,従来のゲーマー向けワイヤレスマウスが抱える挙動面の違和感を「気持ち悪さ」と表現していたが,初めて握った瞬間に感じるのは,「あの違和感」がG900にはないことだ。

 正直,G900に触ってもらうしか,BRZRK氏や筆者の印象を共有してもらう方法はないと思う。また,ゲーマー向けのワイヤレスマウスに触れたことがないと,違和感や気持ち悪さと言っても,そもそもイメージするのが難しいはずだ。なので,発売前のこの時点では「Hype」(ハイプ,過度な誇張。英語圏ではよく「宣伝乙」的な意味で呼びかけ的に使われる)と受け取る人も多いだろう。
 それはやむを得ないと思うが,この衝撃的な第1印象を踏まえて,BICで披露されたデモやテスト結果を1つひとつ確認するにつけ,G900というマウスは,ひょっとするとトンデモない,「ゲーマー向けワイヤレスマウス」の常識を変える製品なのではないか,という気はしている。

 あとは,軽く2万円超えという価格に見合うかといったところで,そこはレビューの掲載を待ってもらえればと思う。

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Logicool G,「ワイヤードマウスより低遅延」なゲーマー向けワイヤレスマウス「G900」発表。キーパーソンがその特徴を語る

Logicool G「G900」ファーストインプレッション。スリープからの復帰は文句なしに早く,重量は相当に軽い

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    Logitech G/Logicool G

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